今年、なんとかクリスマスを迎えることができそうなことに心底感謝しています。しかしながら、国内外共に平安という状況とは程遠く、度重なるコロナ禍のニュースに今この瞬間も心が痛み続けます。
「STRAY SHEEP」は、米津玄師さんのメジャー4枚目、通算5枚目のアルバムとして2020年8月5日に発売されました。タイトルは新約聖書の迷える羊と訳される英単語で、ジャケットには羊のマスクを被った人物が描かれています。同アルバムの中の楽曲「迷える羊」には、こんなフレーズがあります。「列なす様に 演劇は続く 今も新たに 羊は迷う 堪えうる限りに 歌を歌おう フィルムは回り続けている」
「あなたがたの中に百匹の羊を持つ人がいて、それらの中の一匹を失った。その人は九十九匹を荒れ野に放置しても、それを見つけるまで、いなくなった羊のもとに歩いていかないであろうか」と聖書は語っています。この見失った羊は 、助けるべき誰かではなく「私自身である」ことをコロナ禍で実感しています。人はいつも順風満帆な人生を送ることができるわけではありません。そして、この度わたしたちは、全世界レベルでそれを実感しています。今は順調でも、何かの出来事や決断が、致命傷となって人生を壊してしまうことがあるのです。今その現実に立ち竦み、まるで真っ暗な闇の中に立っているかのようです。しかし、そのような状況に陥った時、ふと気がつきました。「闇」という文字の中には、「音」という字が含まれていることに。わたしたちは今、光を見ることができないでいます。しかしながら、音や声、つまり「言葉」がわたしたちを助けてくれるのだということに。そんな時出会ったのが「誰一人取り残さない」という言葉でした。これは「SDGs」で「たったひとつの誓い」と呼ばれている言葉です。
「SDGs」とは、ご存知のようにSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)のことですが、どうにも訳がしっくり来ません。しかも注目されがちなのは「17の目標と169の行動計画」という各論で、何が本質かを分かりかねていました。そもそものSustainableの語源は[sus- =under 下から] [-tain(=hold 保持する)] [-able できる]→下で支えることができる →持ちこたえられるという意味で、橋の下に柱があって支えているイメージです。 一方「develop」の語源の一つは、古フランス語のdesveloper(ほどく/開く) です。つまり「包まれていたものを開く/広げる」という意味から、現在の「develop(~を発達させる/開発する)」の意味につながっているのです。そう考えるとSDGSは、この地球社会を支え続けるために、自分たちに内在する力を外へと引き出すためにすべき事柄という意味なのだと思います。そしてそのたったひとつの目的は、「誰一人取り残さない」ことなのです。
コロナ以前からこの言葉の存在は知っていました。しかしながらあまりにも現実離れしていて、問いのたて方が可怪しいのではないかと感じていました。それは自分が取り残す側にいると思っていたからです。しかしながらポストコロナとなった今、この言葉はリアリティをもってわたしたちに迫ってきます。「取り残されたくない」という心の叫びは、そこここから聴こえてきます。その声に応えてくださるのは、羊飼いイエスです。イエスは心底、取り残されたものを探しだそうとしてくださっています。これが希望の言葉だからこそ私たちは、コロナにたち向かうことができています。
YMCAが提唱している「ポジティブネットのある社会」。それは他者のできごとを自分の出来事かのように捉え、共に喜び、共に泣き、抗議の声を上げ、行動を起こし、局所的にでもフェアネスを実現しようとする関係性のこと。ポストコロナだからこそ、「ポジティブネットがあったから助かった」と想える、そんな社会の実現をめざして歩んでいきます。
ちなみに「迷える羊」のサビの締めはこんなフレーズです。「君の持つ寂しさが 遥かな時を超え 誰かを救う その日を待っているよ ずっと」だかし、今だけではなく、未来を見据えて。これからもますます、前のめりで。
願わくば、限りなく、メリー・クリスマス! 新しい年もどうぞよろしくお願いします。
2020年 アドベント 理事長 正野隆士・総主事 太田直宏